小学生・中学生の体力テストに一喜一憂しない!「体力・運動能力の読み解き方」

監修者:鈴木 宏哉 先生(順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科 教授)
取材:一般社団法人READYBOX 代表 三上 麗(うらら)
毎年、学校から持ち帰る体力テスト*の結果。「平均よりも、点数がいい」「うちの子、こんなに運動できないんだ」と、数字や判定だけを見ていませんか?実際、小学校・中学校での体力テストの結果はどのようにみるべきなのでしょうか。
順天堂大学の鈴木宏哉先生は、その結果を「試験の点数」ではなく、わが子の特徴を知るための「プロフィール」として捉えてほしいと言います。
※ 本文中の「体力テスト」は、正式には新体力テスト(1999年、文部科学省)を指します。国民の体力を把握するための基礎資料とすることを目的とした体力・運動能力調査のために開発されたテストです。
体力テストの結果は「試験の点数」じゃない。大切なのは”プロフィール”として読むこと
新学年になる春、まだ新しい生活にソワソワする時期、毎年小学校・中学校では体力テストが行われています。50m走、握力、反復横とび、立ち幅とび……といった記録。それぞれの記録を眺めて、「低いから心配」「高いからよかった」と感じる方も多いのではないでしょうか。しかし、鈴木先生はこう言います。
「体力テストって、ネーミングがよくないんですよね。試験みたいなイメージになってしまって、点を少しでも多く取ろう、という方向に向いてしまう。本来は”体力診断”とか、”運動適性検査”みたいなニュアンスなんです」
握力が低くても「握力を鍛えなきゃ」ではない
たとえば握力の測定。これは「全身の筋力を簡便に推定する方法」として採用されているもので、握力そのものを鍛えることが目的ではありません。学力テストで「この問題が解けたかどうか」で国語力や数学力を測ろうとするのと同じ発想です。
だから、握力の数値が低かったとしても、「じゃあ握力を鍛えるトレーニングをしよう」という話にはならない、と鈴木先生は指摘します。各テスト項目によって、「筋力」「敏捷性(びんしょうせい)」「全身持久力」といった要素を評価しているので、一つ一つの高い低いよりも、バランスがいいタイプなのか、どこかに特徴があるのかという“プロフィール”として眺めることが大切なのです。


同じ学年での比較には、大きな落とし穴がある
もう一つ、鈴木先生が強調するのが「発育の差」の問題です。同じ学年でも、4月生まれと3月生まれでは、最大で11か月もの成長の差があります。さらに、同じ生まれ月でも早熟な子もいれば、中学校・高校になってからぐんと伸びる子もいます。
そうした個人差を無視して一律に比較してしまうのが今の体力テストの限界でもあり、だからこそ数値だけで「体力が低い」「すごい」と判断するのは危険だ、と鈴木先生は言います。むしろ、身長が低めの子や早生まれの子が平均的な記録を出しているとすれば、体格が追いついてきたときにさらに伸びる可能性を秘めているとも読めるのです。
子どもの体力はなぜ落ちているのか? ボール投げの数字が示す現実
日本の子どもたちの体力は、長期的に見てどう変化しているのでしょうか。統計データが示す現実について、鈴木先生は以下について指摘します。
「ボール投げ」の記録が、ずっと低下傾向にある
小中学生のボール投げの記録が、昭和の頃から長期にわたって低下傾向にあることは、体力の統計データにはっきりと現れています。では、これは単純に「投げる力が落ちた」ということなのでしょうか。鈴木先生の見方は少し違います。
ボール投げというのは、下半身・体幹・上半身、そして最後は指先のリリースまで、全身を連動させる非常に複雑な動作です。ロボット工学の世界でも、ボールを投げる人型ロボットの開発は極めて難しいとされるほど。その記録の低下は、「体を巧みに動かすスキル」そのものが育ちにくくなっていることの表れだと、鈴木先生は考えています。
背景にあるのは「スクリーンタイム」の増加
では、なぜそうした運動経験が不足しているのか。鈴木先生が真っ先に挙げるのは、スクリーンタイムの問題です。
「テレビは昔からあります。でも今は、インターネットにつながるスクリーンが、余暇の時間の大きな誘惑になっている。学校の授業時間でのICT活用はいい。問題は、放課後や週末の自由な時間に何をしているか、です」

体力や運動習慣はいつの経験が大切? 発達段階と親の役割
「幼少期」は親が環境をつくれる唯一の時期
子どもの運動習慣に最も影響を与える時期はいつか——鈴木先生は「どの時期も影響する」としつつも、幼少期の重要性を強調します。
中学生になれば、自分で部活を選んだり、電車に乗って習い事に行ったりと、ある程度自分で選択できます。でも幼少期は違います。親が送迎しなければいけない、親が情報を提供しなければ子どもはそもそも選択肢を知らない。つまり、幼少期は「親が環境を整えてあげられる」特別な時期なのです。
さらに鈴木先生の研究(参考:「幼児期からの運動習慣形成プロジェクト」スポーツ庁委託事業)では、3歳ごろを起点として、そこからどのような運動経験を積むかが、その後の習慣形成に大きく関わることがわかってきています。
「いつからでも遅くない」——でも、習慣化には幼少期が有利
一方で、鈴木先生はこう付け加えます。「思い立ったが吉日」という言葉の通り、高齢になってから運動を始めても体力は高まるし、いつから始めても意味がある、と。ただ、習慣化という観点では、幼少期に「歯磨きをしないと気持ち悪い」という感覚が自然に育つように、体を動かすことが日常の一部として根づくかどうかが、大人になってからの行動を大きく左右するといいます。
「『ちょっと体を動かそうかな』『週に一回くらいは動かないと気持ち悪いな』そう感じられる大人になれるかどうか。そのベースが、子どもの頃に育つんだと思います」
運動の「好き・嫌い」はどこで決まる? 経験と自主性の大切さ
「やったことがある」という感覚が、自信の土台になる
運動が得意か苦手か、好きか嫌いか——その差はどこで生まれるのでしょうか。鈴木先生は、根本には「経験不足」があると言います。
幼児期は、自分がどんなことがどれだけできるか?の認識がまだはっきりしていません。「これできる人?」と聞けばみんな手を挙げるけれど、実際にやらせてみたらできない、という状況もよく起こります。だからこそ、上手にできるかどうかよりも、まず「やったことがある」という経験を積み重ねることが大切です。それが「なんかできそう」という感覚の土台になるのです。
「できるようにさせたい」が、逆効果になることも
体操教室やスイミングなど、子どもに習い事をさせる保護者の方は多いと思います。こうした取り組みを鈴木先生は否定しません。ただ、注意してほしいことがあると言います。
「逆上がりって、本来は鉄棒にぶら下がって遊ぶ中で自然に身につくのが理想。それを”受験対策”みたいに教えて、反復練習してできるようになったとしても、もう二度とやらない子になってしまう可能性があります。大事なのは、できる・できないより、またやりたいと思えるかどうかです」

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勉強でも同じことが起きると、鈴木先生は言います。例えば親が家庭教師を雇い、試験対策をして点数が上がっても、勉強そのものが嫌いになってしまったら、その先は続きません。運動も同じで、子どもの自主性を大切にしながら、静かにサポートすることが理想だと話してくれました。
忙しい家庭でも今日からできる! 体を動かす習慣のつくり方
特別なトレーニングではなく、日常の遊びや生活を少し工夫するだけで活動量は変わります。
年齢・状況別のヒント
幼児〜低学年
- 家の中で「宝探しゲーム」。ぬいぐるみを2階に隠して1階で待機、「どこにあるの?ヒントちょうだい!」と行き来するだけで自然に活動量アップ。
- 「パパ・ママジャングルジム」遊び。お父さんやお母さんなどが四つん這いや橋の形になって、子どもがよじ登る。トンネルくぐりやブリッジも体幹トレーニングになる。
中・高学年
- 1日のスケジュールを「時間割」で決める。「何時からは外で遊ぶ」「ラジオ体操をする」など、家庭での約束ごとを親子で一緒に決めるのがポイント。
- 「体育の宿題」を取り入れる。週末の宿題として、「○○まで歩いたら何歩だったか」「考えた運動メニューを実践してみる」など、記録や報告できる形にすると続けやすい。
運動嫌いな子
- 立ってゲームをする、ベランダで日光を浴びながらゲームをするなど、「座っている時間を減らす」ライトなアプローチからでもOK。
スポーツの話題を日常会話に取り入れるだけでも効果的。
どの年齢にも
- お手伝いも立派な運動。名前のついていない家事には意外と活動量がある。買い物、洗濯物を運ぶ、掃除なども「体を動かす習慣」のひとつ。
また、高学年になって友達と外で遊ぶ機会が減ってきたときは、スポーツ少年団やマルチスポーツのサークルなど、大人が管理・運営する組織的な活動への参加も、運動量を確保する有効な手段だと鈴木先生は言います。
勝ち負けにこだわらず、いろんなスポーツを体験できる場も増えています。子どもの性格や家庭の方針に合わせた選択肢を探してみましょう。
鈴木先生が考える、これからの「生きるスキル」
最後に、鈴木先生「生きるスキルとは何か」を伺いました。
「考えて、判断して、行動できること。それが一番大事だと思います。運動でも勉強でも、何でも同じです」
鈴木先生が特に気にかけているのが、学力調査での「記述問題の白紙回答」です。選択問題ならなんとかなっても、「何々について述べなさい」と聞かれると書けない子どもが一定数いる。でも、正解かどうかよりも、「自分はこう思う、なぜなら○○だから」と書けること——その力こそが、生きるスキルの核心だと鈴木先生は考えています。
正解を知っていることではなく、今ある情報をかき集めて、現時点での最適解を自分なりに出せること。それは、体を動かす経験を通じても育てていける力です。
体力テストは、子どもを「評価」するためのものではありません。鈴木先生の言葉を借りれば、「子どもの体を知るプロフィール」。
一喜一憂するのではなく、日々の生活を振り返るきっかけとして、そして親子で体を動かすことを楽しむヒントとして、活用してみてくださいね。
体力テストQ&A

この記事を監修した人
鈴木 宏哉
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科 教授
1999年順天堂大学スポーツ健康科学部卒業、2001年筑波大学大学院修士課程体育研究科修了、2005年同大学院博士課程体育科学研究科修了。博士(体育科学)。
東亜大学講師、東北学院大学講師・准教授を経て、2015年4月より順天堂大学スポーツ健康科学部准教授、2018年4月より同先任准教授。2025年4月より現職。同発育発達学・測定評価学研究室代表。
専門は、発育発達学、測定評価学、体力学。文部科学省およびスポーツ庁の体力や運動習慣に関する有識者委員などの公職を多く務めるほか、日本発育発達学会理事、日本体育測定評価学会理事などの役職を歴任。研究室の使命は今の子どもたちの育ちを支える研究、そしてその成果を実践する専門家の育成。
目指すは、「未来に役立つモノづくりよりも未来を創る人づくり」。
参考:新体力テスト実施要領(スポーツ庁)https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop03/list/1371914.htm




