<子どもの睡眠 前編>子どもの睡眠不足はなぜ起こる?「整える」ことを意識しよう

監修者:東京大学大学院医学系研究科講師 岸 哲史(あきふみ)
子どもの健康を考える上で、睡眠は大事な要素の一つ。しかし、忙しい日々の中で睡眠に意識を向け続けることは難しいものです。
現代の子どもを取り巻く環境には、睡眠に関する様々な課題があります。睡眠の質や量を整えるためには、まず正しい知識を知ることが大切です。
今回は、東京大学大学院医学系研究科の講師で、「子ども睡眠健診プロジェクト」メンバーの岸哲史先生に、子どもの睡眠の実態と原因について伺いました。
平日の「不足」と休日の「補填」で社会的時差ボケに
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」によると、小学生は9〜12時間、中高生は8〜10時間の睡眠時間を確保することが推奨事項として示されています。
しかし、岸先生が「子ども睡眠健診プロジェクト」で行った調査では、小学校6年生の95%、中学3年生の88%、高校3年生の95%が推奨睡眠時間を満たしていない(※)ことがわかりました。
※現在調査途中のため、この数値は変わってくる可能性があります。
さらに、現在の子どもの睡眠について、「大きく2つの問題点がある」と岸先生は指摘します。
1つ目は、平日の睡眠不足の蓄積です。平日は学校や習いごとなどで就寝時間が遅くなりがちですが、学校に行く時間は決まっているため、どうしても睡眠時間が短くなってしまいます。
そしてもう1つの問題が、平日に不足した睡眠時間を週末に補おうとしていることです。
この2つの問題が重なることで睡眠のリズムが乱れ、入眠時刻と起床時刻の中間点である「睡眠中央時刻」にもズレが生じます。
このズレは「社会的時差ぼけ」と呼ばれ、海外旅行に行っていないのに時差ぼけのような状態になり、不調が起こる状態を指します。
特に中学生頃から、社会的時差ぼけが大きくなる傾向にあります。社会的時差ボケが2時間以上になると将来的な健康リスクにも関わります。そのためにも、睡眠習慣の見直しが必要です。

社会の影響が睡眠不足を招く要因に
睡眠時間が不足しやすい背景には、構造的な要因があります。
現代の子どもを取り巻く状況は、学校生活や塾、習いごとなどで忙しく、睡眠時間を十分に確保することが難しくなっています。さらに、両親の共働きや核家族化に伴い、夕食の時間や就寝時間といった生活リズムが後ろ倒しになっていることも挙げられます。
こうした状況に加え、スマホやタブレット、ゲームなど、デジタルデバイスの普及も子どもの睡眠不足を引き起こしています。
就寝前の空いた時間にデジタルデバイスを使うことで睡眠時間が削られるほか、画面から発せられる光の刺激で眠れなくなる可能性も指摘されています。十分な睡眠は、日中の集中力や学習の質、さらには人間関係にも良い影響を与えてくれます。
忙しい現代社会だからこそ、睡眠を「削る」のではなく、睡眠を「整える」ことで1日の質を高めるという視点が大切なのです。
睡眠不足が子どもの心身にもたらす影響
睡眠は、子どもの脳や心の発達と深く関わっています。ある研究によると、平日の睡眠時間と記憶をつかさどる海馬の体積には正の相関関係があることが示されています。睡眠時間が短かったり、生活リズムが乱れていたりすると、記憶をつかさどる海馬や、思考・感情・判断に関わる脳の領域の発達に影響が出る可能性があることが分かっています。
また、眠気を感じたり、集中力がなくなったりすることによる学習効果の低下やインプットした情報を長期記憶として定着させることが難しくなるなど、学習面でも様々な影響があります。
さらに、メンタルヘルスとも密接な関係があります。
中高生の睡眠と心の状態を調べた研究では、推奨されている睡眠時間(8時間以上)より短い状態が続くほど、不安や気分の落ち込みのリスクが高まることが示されています。「睡眠の乱れが先に起こり、その後に心の不調が現れることが多い」という特徴もあります。
これらのことから、睡眠は脳や心の状態を検知する“センサー”のような役割を果たしていることがわかります。
「最近寝る時間が遅くなっている」「朝すっきり起きられない」「イライラしている」などの子どもの変化に気づいたら、早い段階で睡眠を整えるアプローチをすること。
それが、子どもの心と体を守る大切な一歩になるでしょう。
後編では、睡眠の質や量を改善するための具体的なアプローチを紹介します。
子どもの睡眠Q&A

この記事を監修した人
岸 哲史(あきふみ)
東京大学大学院医学系研究科 講師
2006年東京大学教育学部卒業、2008年東京大学大学院教育学研究科修士課程修了、2011年同博士課程修了。博士(教育学)。2010年米国ニューヨーク大学医学部研究員、2014年東京大学大学院教育学研究科助教、2022年東京大学大学院医学系研究科特任講師を経て、2025年4月より現職。
専門は、睡眠科学、教育生理学。ヒト睡眠ダイナミクスの解析・評価・制御に関する研究に従事。現在は、JST ERATO上田生体時間プロジェクト・グループリーダーとして、子どもの健やかな睡眠状態を知り・育み・護ることを目的とした「子ども睡眠健診」プロジェクトを推進中。





