スポーツを頑張る子どもが「痛い」と言えない理由と、周りの大人にできること

監修:中村絵美(順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科 教員/ 理学療法士)
前編では、現代の子どもたちの体に起きている「二極化」の問題と、成長期のケアについてお伝えしました。後編では、日常生活の中で親ができるサポートについて、引き続き中村絵美先生に伺います。
スポーツを頑張る子どもを持つ保護者の方にも、運動よりも室内での時間が多い子どもを持つ保護者の方にも、ぜひ読んでいただきたい内容です。
スポーツしている子どもが「痛い」と言えない理由と、大人にできるSOSを出しやすい環境づくり
レギュラーを外されたくない、迷惑をかけたくない…子どもが痛みを隠してしまう心理
怪我をした時、子どもはどう向き合えばいいのでしょうか。中村先生はまず、「怪我をすること自体は、悪いことではない」と言います。
問題は、チームスポーツをしている子どもが「痛い」と言い出せない環境にあることです。
「レギュラーを外されたくない、チームに迷惑をかけたくない、家族の期待に応えたいという気持ちから、痛みをぐっと我慢してしまう子が多いんです。でも、我慢して悪化してからやっと打ち明けると、症状が重くなっているぶん、治るまでに時間がかかってしまう。結果的にスポーツができない期間が長くなってしまうんです」
選抜メンバーを目指している子どもであれば、なおさらです。家族や周囲からの期待やプレッシャーが重なれば、「ちょっと変かも」という小さなサインを、子ども自身が飲み込んでしまいます。我慢強いことは美徳のように見えますが、体のサインに関しては「我慢しない」ことが長く競技を続けるための近道なのです。
初期の「ちょっと変だな」に大人が気づくことで、子どものスポーツ休止期間は短くなる
大切なのは、「ちょっと変だな」「なんか痛いかも」という初期のサインを言える環境を、大人が整えてあげることです。中村先生は、このように言います。
「初期の段階で気づいて対応できれば、炎症も少なく、1〜2日休めばまた普通に動ける場合もあります。でも我慢して悪化すると、同じ怪我でも休む期間が何倍にも延びてしまいます。子どもに『痛いって言うのは悪いことじゃない』と伝えながら、大人側も動きの変化や歩く姿など、日々の様子をよく見てあげてほしいです」
子ども自身が言葉にできなくても、体は必ずサインを出しています。アップの時間にいつもより足が動いていない、動きに違和感がある、帰宅後にいつもより口数が少ない。そういった小さな変化に気づいて、まず声をかけられる大人の存在が、子どもの体を守る一番の「ケア」になります。
「調子どう?」のひとことが、子どもにとっての大きな安心になるのです。

朝の「だるい」は体からのサイン!スポーツを頑張る子どものエネルギー枯渇と睡眠不足
「今日は体が重い」「なんかだるい」こうした朝の訴えを、「気持ちの問題」「怠けているだけ」と受け取っていませんか。実はこれ、体からの大切なサインである可能性があります。中村先生は、その背景にある主な原因を教えてくれました。
子どもは「スポーツで動くエネルギー」+「体を作るエネルギー」をダブルで消費している
「子どもは運動するためのエネルギーだけでなく、骨や筋肉を作るためのエネルギーも同時に使っています。大人より消費量がずっと多い分、食事をしっかり取れていないとすぐに枯渇してしまいます」
たとえば、前日の練習でクタクタになって帰宅し、疲れすぎてほとんど食べずに就寝。翌朝また練習や学校がある——このパターンは、体がエネルギーを補充できないまま動き続けることを意味します。「お腹が空いていない」と言う子どもにも、食べやすいものをこまめに補給させてあげることが大切です。
「子どもの場合、動くためのエネルギーに加えて、体を作るエネルギーをダブルで使っているので、何もしなくても骨を作ったり筋肉を作ったりしているんです。だからきちんと食べないとすぐなくなってしまう」と、中村先生は言います。
サッカーの練習に向かう2時間前、という場面で「お腹が空いていないから大丈夫」と言う子どもに、保護者がひとこと「少しでも食べておこう」と声をかけることが、怪我の予防につながっているのです。
子どものスマホ利用による自律神経の乱れと浅い睡眠
「スマホを夜遅くまで見ていると、交感神経が高ぶったままの状態が続きます。なかなか寝つけなかったり、眠りが浅くなったりするんです。子どもの体は寝ている間に回復するので、睡眠がきちんと取れていないと、翌朝起きた時点でまだ疲れが残った状態になってしまいます」
スマホやゲームの時間は、一見するとスポーツの怪我とは無関係に思えるかもしれません。しかし、睡眠不足や自律神経の乱れを引き起こすことで、子どもの「体の回復力」を確実に低下させてしまいます。スマホの画面をスクロールし続けることで脳は常に刺激を受け続け、いわばアクセルを踏みっぱなしの状態に。「休まる時間がない」まま眠ろうとしても、体はなかなか休息モードに切り替わりません。
スマホは怪我とは直接関係がないように見えて、睡眠と自律神経を介して確実に体の回復力に影響しているのです。だからこそ、「寝る1時間前はスマホを手放す」という小さな習慣が、子どもの体を守ることにつながります。

「だるい日」に無理して動くと、怪我のリスクが上がる
「体が重い・だるい」と感じている日に同じ強度で運動すると、集中力が低下して怪我をしやすくなります。では、そういった日はどう対応すればいいのでしょうか。
「そのままいつも通りに動いてしまうと、それこそ怪我をしてしまう可能性が高くなります。アップの時間をいつもより長めに取って、動いてみて体が戻ってくるようなら続ける。でも動いてもやっぱりだるいという場合は、練習を半分にするか、その日は休む方が危なくないかなと思います」と、中村先生は言います。「休むこと」に罪悪感を持ちやすい子どもや保護者も多いと思いますが、体のサインを無視して動き続けることの方が、長い目で見れば大きなリスクになります。休むことも、立派なコンディション管理のひとつです。
子どもが毎日楽しくスポーツを続けるために、親が明日からできるサポート

大人にできることは、実はとてもシンプル
子どもの体と怪我について、中村先生のお話を通じて見えてきたのは、大人にできることはとてもシンプルだということです。特別な知識や道具は必要ありません。
- 子どもをよく観察する:表情、走り方、食事量、帰宅後の様子。言葉にならないサインを見逃さない
- 声をかける:「調子どう?」のひとことが、子どもにとってSOSを出す入口になる
- 言える環境を作る:「痛いって言っていいんだよ」「休むことも大事だよ」「早く言った方が早く治るよ」を日頃から伝える
- 食事と睡眠を整える:運動と同じくらい、体を回復させる準備が大事。スマホの時間にも目を向けて
- 休むことを認める:「だるい」「体が重い」という訴えを、怠けと決めつけない
インタビューの最後に、中村先生に「生きるスキルとは何か」を聞きました。
「毎日1回、鏡の前でにっこり笑うようにしているんです。笑うことと、ちゃんと寝ること。それが大事かなと思っています」と、中村先生は笑顔で話してくれました。
スポーツの専門家として、体のケアを日々研究・実践している中村先生が行き着いた答えが、「笑うこと」と「寝ること」。シンプルだけれど、毎日続けることが意外と難しい、とても大切な習慣です。
毎日を楽しく過ごすための習慣として、子どもたちと一緒にぜひ試してみてください。
子どものスポーツとケア に関するQ&A

この記事を監修した人
中村 絵美
博士(保健学),理学療法士,認定理学療法士(スポーツ理学療法),日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー
大学教育の現場にて、成長期アスリートのスポーツ障害予防やリハビリテーションに関連する臨床・教育・研究に従事。大学内クリニックでのスポーツ理学療法(リハビリテーション)をはじめ、女子野球チームのトレーナーとして現場サポート、子どもたちのケガを未然に防ぐ啓発活動など,医療・教育・スポーツ現場のさまざまな領域で活動。自身の臨床経験から、子どもたちや学生アスリートの「ちょっと変だな」という初期サインを見逃さないための実践的なケアや支援に携わっている。




