子どもの体に今、何が起きている?スポーツの「やりすぎ」と「動かなすぎ」の二極化、成長期のケガ防止に親ができること

監修:中村絵美(順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科 教員/ 理学療法士)
「うちの子、最近足が痛いって言っていて……」「なんだか姿勢が悪くて、心配」
子どもの体のことが気になりながらも、どこまで気にすればいいのかわからない。そんなもどかしさを感じている保護者の方は多いのではないでしょうか。
実は、小学生・中学生の怪我やケアに関する悩みは、「スポーツを頑張っている子」だけの話ではありません。家でゲームやスマホに熱中している子どもにも、別の形で体への影響が出てきています。
今回は、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科で子どもの体とスポーツについて研究し、理学療法士として中学生の野球チームのケアにも携わる中村絵美先生に、成長期の怪我の背景とおうちでできるセルフケアについて詳しく伺いました。前編では、現代の子どもたちの体に何が起きているのか、そしてご家庭でできるセルフチェックとストレッチについてお伝えします。
現代の子どもたちは「二極化」している?スポーツ環境に潜むケガのリスク
トップアスリート並みにスポーツする子の「オーバーユース(使いすぎ)」の落とし穴
最近の小中学生のスポーツ環境について、中村先生がまず指摘するのが「二極化」という現象です。
「すごくたくさん動く子と、逆に家の中でゲームやスマホばかりで全然動かない子と、極端に分かれてきていると感じます。どちらも怪我のリスクがあるんですが、その理由がまったく違うんです」と、中村先生は言います。
スポーツに熱心に取り組む子どもに多いのが、「オーバーユース(使いすぎ)」による怪我です。特に幼い頃から一つの競技に絞って練習を続けている子どもほど、注意が必要だといいます。
「同じ動きを繰り返し続けることで、体の特定の部位だけに負担が集中してしまいます。大人のトップアスリートと同じような練習を、成長途中の体でやり続けることになるわけですから、どうしても使いすぎになってしまいやすいんです」
ここで中村先生が紹介してくれたのが、日本とアメリカのスポーツ環境の違いです。アメリカでは、高校生くらいまではシーズンごとに競技を変える「シーズン制スポーツ」が一般的で、一人の子どもが野球、バスケット、アメフトと複数の競技に取り組みます。そのため自然に体の使い方に幅が生まれ、特定部位への負担が分散されます。一つの競技だけに特化しないことが、体づくりの面でも意味を持っているのです。
一方、日本では一つの部活やクラブに入ったら年間を通じてそれを続けるスタイルが主流。同じ動作の繰り返しになりやすい環境が、子どもの体への負担を生んでいます。小学生のうちは、本人が「使いすぎかどうか」を自分で判断するのは難しいもの。だからこそ、周りの大人が特定のスポーツだけでなく、全身をまんべんなく使える別の運動も取り入れてあげることが大切です。

家でゲームやスマホに熱中する「動かなさすぎ」による身体能力低下
一方、体をあまり動かさない子どもにも、じわじわと体への影響が出てきます。
「スマホやタブレットで動画を見ている時間が長くなると、問題なのはその『見ている姿勢』なんです。ソファにぐったり座って猫背になっていると、お腹まわりの筋肉をほとんど使わないまま長時間過ごすことになる。そうすると全体的な身体能力が落ちて、ちょっとしたところでつまずいたり、転んだりしやすくなります」
こうした子どもたちは、痛みがあるわけではないため、気づかれにくい状況にあります。しかし中村先生は、保護者向けの相談や現場での指導を通じて、こうした不調を抱える子どもたちが確実に増えていると感じているといいます。体の使い方の偏りは、目に見えないまま着実に積み重なっていくのです。
成長期の筋トレはどこまでOK?骨と筋肉の「成長スピードのズレ」を知ろう
身長が伸びる時期ほど、筋肉は一時的に硬くなる
「小さい頃から筋肉をつけすぎちゃダメ」という話を耳にしたことはありませんか?SNSでは驚くほど筋肉のついた子どもの動画を見かけることもありますが、成長期の体には大人とは異なる特別な事情があります。
中村先生によると、小学校高学年から中学生にかけての「発育のスパート期」には、骨が急激に伸びるスピードと、筋肉が伸びるスピードにズレが生じます。
「骨がぐっと伸びたからといって、筋肉がそれと同じペースで伸びてくれるわけではないんです。だから成長スパートの時期って、体が自然と硬くなるんですよ。背が伸びているのに、なんか体が硬くなった気がする……というのは、実はよくあることなんです」
成長期に体が硬くなりやすいのは、ある意味では自然な現象。しかしここに、間違ったケアが重なると問題が起きます。
やりっぱなしはNG!疲労骨折や剥離骨折を防ぐためのケア

この「体が硬くなりやすい時期」に激しい運動を加え、さらにストレッチもせずにいると、どうなるのでしょうか。
「筋肉がどんどん硬くなって、骨への負担が高まります。結果として、疲労骨折や、筋肉が骨の付着部を引っ張ることで起きる剥離骨折につながることがあります。特に中学生は、練習後にそのままケアをせず帰宅してしまうことが多いので、『やりっぱなし』が一番危ないんです」
成長期の筋トレ自体がすべてNGというわけではありません。大切なのは「やった後に必ずストレッチでケアをセットにすること」。これが、成長期の体を守る上でとても重要だと中村先生は強調します。特に伸び盛りの時期は、「頑張ること」と同じくらい「ケアすること」の習慣を、大人が一緒に作ってあげてほしいと言います。
親子で週1回のセルフチェック!「前屈」と「しゃがみ込み」ができない子どものリスク
和式トイレが使えない?椅子生活がもたらした下半身の硬さ
体の柔軟性や関節の動きをチェックする方法として、中村先生がすすめるのが2つのシンプルな動きです。これは学校の「運動器検診」でも実際に使われている評価項目です。
☑ 前屈チェック:立った状態で前に体を倒したとき、指先が床に届くか?
☑ しゃがみ込みチェック:かかとをしっかりつけたまま、深くしゃがめるか?
特にしゃがみ込みについては、現代の生活様式が大きく影響していると中村先生は言います。
「和式トイレや床に座る生活が減って、日常の中で深くしゃがむ場面がほとんどなくなりましたよね。昔の日本の生活では、立った状態から床へ降りるという動作を一日の中で何度もしていたんです。でも今は椅子やベッドが中心で、深くしゃがむ機会がほとんどない。だから足首や股関節が硬くなって、しゃがめない子どもが増えているんです」
ちなみに、欧米人はもともと足首が硬く、深くしゃがめない人が多いといいます。日本人がかつて得意としていた「しゃがむ動作」は、実は体にとってとても大切な動きだったのです。「和式のトイレに入れない子が多い」という話も、決して笑い話ではありません。
前屈としゃがみ込みができないと「腰痛」の原因に
では、これらの動きができないと、具体的にどんな問題が起きるのでしょうか。
「どちらもできないと、腰を痛めやすくなります。腰は体の中心にある部位なので、授業中にずっと座っていることがつらくなったり、日常生活でも問題が出やすいんです」
前屈ができない場合は、もも裏やお尻まわりの筋肉が硬くなっていることが多いといいます。しゃがみ込みができないと、床のものを拾ったり荷物を持ち上げたりする時に、下半身の力をうまく使えず、腰で持ち上げてしまう動作グセがつきやすくなります。
「”ちっちゃくなれる体”も大事なんです。大きく動ける、遠くまで走れることと同じくらい、体をギュッと丸めて小さくなれることも必要で。丸まれないと、転んだ時の受け身も取りにくくなるので、怪我につながりやすくなります」
膝を抱えて座るいわゆる体育座りや正座がうまくできない子どもが増えている、という話を聞いたことはありますか?中村先生は「体育座りも正座もできない子が最近は多い」と言います。「できない」ではなく「体がそうなっている」という現実を、まず大人が知っておくことが大切です。
チェックは毎週1回月曜日、「セルフチェックの日」として習慣にするのがおすすめです。

おすすめのおうちケア!「ジャックナイフストレッチ」と「ラジオ体操」
チェックをしてみて、前屈やしゃがみ込みがうまくできなかった場合、家でできるケアを中村先生に教えていただきました。
ジャックナイフストレッチ(もも裏を伸ばす)
立った状態で前屈し、足首あたりを両手で持ちます。そのままお腹とももをくっつけるようにしながら、ゆっくりお尻を持ち上げます。「痛気持ちいい」くらいで10秒キープ。
「強度は高めですが、これだけでもかなりもも裏が伸びます。検索するとやり方の動画も出てくるので、ぜひ参考にしてみてください」と中村先生は言います。
ラジオ体操
「ラジオ体操、実は最強の全身運動なんです」と中村先生は言います。「きちんと一つひとつの動作を意識してやると、全身のいろんな筋肉をバランスよく動かせるストレッチになります。大人になるほど、その良さが実感できる。子どもと一緒にちゃんとやってみてほしいですね」
子どもの頃はなんとなくこなしていたラジオ体操も、動きを意識するだけで効果がまったく変わります。親子で「ちゃんとやる」ラジオ体操を、ぜひ試してみてください。
ストレッチとマッサージはよく混同されますが、体への働きかけが異なります。「ストレッチは筋肉を伸ばすもの、マッサージは筋肉をほぐすもの」。
固まった筋肉をほぐしてから伸ばす、この順番が理想的です。
注意したいのが「揉み返し」。力を入れすぎてゴリゴリほぐすと、その時はすっきりしても、痛みの刺激が強すぎて筋肉が防御反応を起こし、再びギュッと硬く縮んでしまいます。「痛いほど効く」は思い込みで、大切なのは「痛気持ちいい」の範囲にとどめること。「痛い」と感じるほどの刺激は、体にとって逆効果になることがあります。
子どものスポーツとケアに関するQ&A

この記事を監修した人
中村 絵美
博士(保健学),理学療法士,認定理学療法士(スポーツ理学療法),日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー
大学教育の現場にて、成長期アスリートのスポーツ障害予防やリハビリテーションに関連する臨床・教育・研究に従事。大学内クリニックでのスポーツ理学療法(リハビリテーション)をはじめ、女子野球チームのトレーナーとして現場サポート、子どもたちのケガを未然に防ぐ啓発活動など,医療・教育・スポーツ現場のさまざまな領域で活動。自身の臨床経験から、子どもたちや学生アスリートの「ちょっと変だな」という初期サインを見逃さないための実践的なケアや支援に携わっている。




