不登校や行き渋り、子どものSOSにどう向き合えばいい?「心の安全基地」を作る3つのヒント

監修者:公認心理師・臨床心理士 山本茉樹
取材:一般社団法人READYBOX 代表 三上 麗(うらら)
協力:特定非営利活動法人メンタルヘルス環境向上プロジェクト
「前編では、現代の子どもたちが直面している過酷な情報の波や、心身が出すSOSサイン、そして自分を守るための「こころの道具箱」という概念について伺いました。
後編では、それらを踏まえて「保護者は具体的にどう向き合えばいいのか」、そして保護者自身の心を救う考え方や外部との繋がり方について、日米で多くの親子を支援してきた公認心理師・臨床心理士の山本茉樹先生に詳しく伺います。
山本先生が提唱する、子どもの自立を促す「心の安全基地」を作るための3つのヒントを整理しました。
ヒント①:1日5分、スマホを置いて「ただ隣に居る」時間を
子どもに元気がなかったり、学校に行き渋ったりしているとき、何か力になりたいと思うあまり、つい「学校で何があったの?」「こうすればいいじゃない」とアドバイスをしたり、原因を問い詰めたりしたくなるのが親心です。しかし、山本先生が推奨するのは、あえて「何もしない」という、一見シンプルながらも高度な寄り添い方です。
評価もアドバイスも手放す。「ありのままを聴く」習慣
「忙しい毎日ですが、1日5分だけでいいんです。スマホを別の部屋に置き、テレビも消して、100%の意識を子どもに向けてみてください」と山本先生はいいます。
これは心理学で「アクティブ・リスニング(積極的傾聴)」と呼ばれる手法の一種です。ここで重要なのは、保護者が子どもを「正しい方向へ導こう」としないこと。「それはダメだよ」といった評価や、「こうすれば解決するよ」という解決策の提示を一切脇に置き、ただ子どもが今見ている世界、感じている感情、取り組んでいる遊びを「そのまま」受け入れます。
好奇心と愛情を持って「そこに居る」ことの魔法
山本先生が大切にされている概念に、好奇心・受容・愛情を持って接する「心の安全基地づくり」があります。
「何を話しても、あるいは何も話さなくても、この人は自分を否定しない。ありのままの自分を受け入れてくれる」。その確信こそが、子どもの心の安全基地となります。 「ただ隣に座って、子どもが遊んでいる様子を眺めるだけでもいいんです。そこに好奇心と愛情があれば、子どもは『自分は価値がある存在なんだ』という安心感を得ます。その安心感があるからこそ、外の世界がどんなに荒れていても、また自分の力で一歩を踏み出すエネルギーを充電できるのです」
ヒント②:完璧を目指さない。失敗を絆に変える「関係の修復(リペア)」
「つい感情的に怒鳴ってしまった」「突き放すようなことを言って、寝顔を見て後悔した」。そんな自己嫌悪に陥る保護者の方は少なくありません。そんなとき、山本先生は「関係の修復(リペア)」という、保護者にとって心強い考え方を教えてくれました。
失敗を絆に変える「ごめんね」のステップ
「保護者も一人の人間ですから、間違えることも、余裕がなくなることもあります。大切なのは、間違えないことではなく、その後の『修復(リペア)』です」感情が落ち着いた後で、「さっきは言いすぎてごめんね。お母さんも疲れていて余裕がなかったんだ」と正直に伝えること。このプロセスは、単なる謝罪以上の意味を持ちます。子どもはこれを通じて、「関係は一度壊れても、対話によって直せるんだ」という対人関係における最も重要な安心感と、失敗から立ち直るモデルを学ぶのです。
大人自身の心を整える「自分への思いやり(セルフコンパッション)」
「自分を一番後回しにしてしまいがちな保護者の方にこそ、自分を労わる気持ち(セルフコンパッション)が必要です」と山本先生は強調します。
保護者が自分を責め続けていると、その緊張感や硬直した空気は鏡のように子どもに伝わります。まずは保護者が自分を労わり、自分自身の「心のコップ」を満たすこと。保護者が自分自身に思いやりを持って接することができると、子どもの成長過程でのつまづきを自然と受け入れやすくなります。保護者の心の余裕こそが、子どもの回復を支える最大の土台となるのです。

ヒント③:「助けて」と言える力を親子で育む
インタビューの最後に、一人で抱え込みがちな子どもへの接し方について、具体的なアドバイスをいただきました。
相談できない子への「見守り」と、背中で見せる「助けを求める姿」
もしお子さんが、何でも自分一人で解決しようと抱え込んでいるように見えたら、どう声をかけるのが良いのでしょうか。
山本先生は、「うまく言えないときは『何があったか話して』とすぐに原因を問い詰めるのではなく、まずは『いつでもあなたの味方だよ』という空気感を出し続けることが何より大切です」といいます。
無理に聞き出そうとせず、ただ隣に座って同じ時間を共有する。「話せる準備ができたらいつでも聞くからね」というその静かな見守りこそが、子どもにとっては「何を言っても、言わなくても大丈夫なんだ」という強力な安心のメッセージになります。
そして、もう一つ意外なアプローチとして先生が教えてくださったのが、保護者自身が「助けを求める姿」をあえて子どもに見せることです。
大人が一人で抱え込まず、誰かに助けを求める姿を間近で見ることで、子どもは『あ、困ったときは助けてと言ってもいいんだ』と学ぶのだといいます。
山本先生が考える「生きるスキル」とは
インタビューの最後に、改めて「生きるスキル」とはどういうものかを聞かせていただきました。
「自分自身とちゃんとつながれていて、人ともつながれること。
そして、困ったときに『助けて』と声を上げられること――それが『生きるスキル』だと思っています」
「どうすればいいかわからない」と迷っているとき、大切なのは「本当に助けてもらえた」と思える場所に出会うまで、諦めずに探し続けることだと山本先生は言います。
「一度相談してみて、なんか違うなと感じたなら、そこで終わりにしなくていいんです。
もう頼れる場所がないわけでもありません。『この人とは合わなかっただけ』と気持ちを切り替えて、また別の誰かを訪ねてみてください。あなたの悩みをちゃんと受け止めてくれる人は、必ずいます」
「合う人に出会えるまで探し続ける」――その気持ちを持つことが、自分を助ける第一歩になります。
「メンタルヘルスを特別なものにしない社会」を目指すNPOです。心に悩みを抱えながらも「相談するのは怖い」と感じ、支援につながれないまま孤立してしまう人は少なくありません。MHECはその”相談の手前”にある壁に注目し、誰もが自然に心のケアに触れられる文化づくりに取り組んでいます。信頼できる心理専門家を紹介するサービス「マイメンタルヘルス」なども展開中。専門家だけに頼るのではなく、市民一人ひとりが心の健康を学び、支え合える社会の実現を目指しています。
MHECの中心となる取り組みです。アートや音楽、ヒップホップ、マインドフルネスなど多様な表現活動を通じて、子どもも大人も自分の気持ちを安心して表現できる場を提供しています。2026年5月31日には「M.O.F.U 2026 ウェルネスイベント」の開催も予定しています。

この記事を監修した人
山本 茉樹
公認心理師・臨床心理士、米国カリフォルニア州認定 LMFT(マリッジ・ファミリーセラピスト)
日本および米国カリフォルニア州にて、医療機関、教育・保育現場、地域支援に関連する臨床に従事。都内の総合病院精神科および精神科クリニックにて、心理療法士として心理臨床および研究に従事した後、米国で地域に根ざしたコミュニティベースの臨床に約10年間携わる。
クリニックでの臨床をはじめ、乳幼児期のメンタルヘルス・コンサルテーション(ECMHC)、神経発達症のあるお子さんとそのご家族への支援、精神科疾患を抱える方への心理療法など、さまざまな領域で活動。また、自身の海外生活の経験から在外邦人のメンタルヘルス支援にも携わっている。





