子どものSOSを見逃さない!親ができるメンタルケアと接し方<無料教材あり>

監修者:公認心理師・臨床心理士 山本茉樹
取材:一般社団法人READYBOX 代表 三上 麗(うらら)
協力:特定非営利活動法人メンタルヘルス環境向上プロジェクト
「最近、うちの子、元気がなくて……」「学校の話をあまりしてくれなくなったな」。 そんな小さな不安を抱えている保護者の方は少なくありません。文部科学省の調査*では、不登校の小中学生は2024年には約35万人の過去最多となっています。いまやどのご家庭にとっても他人事ではない課題になっています。
現代の子どもたちは、大人と同じ、あるいはそれ以上のストレスにさらされているといいます。日々をがんばる子どもたちのために、私たち大人は家庭をどのような「居場所」にしていけばいいのでしょうか。
日米の両国で多くの親子をサポートされてきた公認心理師・臨床心理士の山本茉樹先生に、子どもの心を守るために今日からできる「寄り添い方」を伺いました。
※「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(文部科学省、2024)
脳も体もフル回転。現代の子どもが抱える「疲れ・ストレス」の正体
まず伺ったのは、いまの子どもたちが置かれている環境についてです。山本先生いわく、昔からある友人関係などの悩みに加えて、小学生にとって、現代特有の「情報の速さ」が、子どもたちの心に大きく影響しているといいます。
「スマホやタブレットでいつでもYouTubeやSNSに触れられる環境は、便利ですが、その分、脳は休む暇がありません」と山本先生はいいます。
画面の向こう側では、常に誰かが誰かを評価(ジャッジ)していたり、キラキラした他人と自分を無意識に比べてしまったり。直接自分が何かを言われたわけではなくても、そうした情報の波にさらされ続けると、子どもの心はすり減ってしまうのです。
「動画などは次々に新しい刺激をくれるので、脳は喜びますが、実は処理能力を超えた負担がかかっています」
と山本先生はいいます。大人でもSNS疲れを感じるように、成長過程にある子どもたちの脳と体は、私たちが思う以上に「見えない疲れ」やストレスを溜め込んでいるのです。
「世界で一番の専門家」である保護者の直感
そんな「見えない疲れ」が限界に近づいたとき、子どもたちはどのようにSOSを出すのでしょうか。
山本先生は、腹痛や頭痛、吐き気、寝つきの悪さといった体の不調は、言葉にできない心からの叫びであるといいます。しかし、そうしたはっきりした症状が出ていなくても、気づいてあげられるチャンスがあるとも語ります。
「お父さん、お母さんは、世界で一番の『わが子の専門家』なんです」と山本先生はいいます。
「いつもなら笑う場面で笑わない」「大好きなはずのメニューなのに食が進まない」「なんとなくトイレに行く回数が増えた」。そんな、ほんの少しの「違和感」に気づけるのは、毎日そばで見守っている保護者の方だけです。
「何かあったの?」と原因を問い詰める必要はありません。
「ん? いつもと違うな」という自分の直感を信じてほしい、と山本先生はいいます。その違和感を大切にしながら、そっと静かに見守ってみること。その温かな眼差しこそが、子どもの心を解きほぐす第一歩になるのです。
ピンチを乗り越える力を育む「こころの道具箱」


もし子どもが壁にぶつかったとき、立ち直ったり乗り越えるためのヒントとして山本先生が教えてくれたのが「道具箱(ツールボックス)」という考え方です。
例:
こころの道具箱はストレスがかかったとき、つらさを感じたとき、イヤな気持ちになったとき、不安になったときなどに、自分を助けるために使えるアイディアや方法、道具(物)を集めたもの。
例として…
気分を変える方法:お笑いをみる、好きなアニメをみる、お気に入りの洋服を着る、自分を奮い立たせる言葉を唱えてみる、など。
問題解決の方法:何が問題が書き出してみる、自分の強みをリストアップしてみる、解決方法を考えてみる、対人関係の場合、どう相手に気持ちを伝えるか練習してみる、など
気持ちをリラックスさせたり、落ち着かせたりする方法:好きな音楽を聴く、ゴローンとしてみる、深呼吸をする、散歩に出かける、スピナーなどのフィジットトイを使う、など
気持ちを整理する方法:思いきり泣く、枕をあてて叫ぶ、クッションを殴る、気持ちを吐き出す、日記を書く、塗り絵をする、など
ストレス解消法:踊ってみる、好きなものを食べる、料理をする、絵を描く、公園で遊ぶ、走る、など
安心する仲間:大切なお守りを握りしめる、好きなぬいぐるみを抱っこする、筆箱に自分の大切な鉛筆を入れておく、大好きな人(例えばお母さん)のハンカチをポケットに入れておく、お気に入りの靴下を履く、など
エネルギーを充電する方法:大好きな人にハグしてもらう、寝る時に手を繋いでもらう、一緒にゲームしたり出かけたり楽しいことをする、推し活や趣味に没頭する、など
助けを求める方法:保護者や家族に困っていることを言う、信頼できる大人に話す、信頼できる友達に話したり手紙やテキストを書いたりする、信頼できる人に”隣に座ってて”や、”手を繋いでて”と伝える、SOSのホットラインに電話する、など
シンプルな例だと、小学校1年生でお友達と一緒に遊びたいけど、怖くてどう声を掛けていいかわからないとき。道具箱の解決方法に、「一緒に遊ぼう」と声をかけてみる、手紙に書いて渡してみる、先生に言ってもらう、などの解決道具があれば、その子に合った道具を使ってみることができます。その道具を使うために必要なエネルギーの充電は、お母さんにハグしてもらったり、学校まで送ってもらうことかもしれません。高学年になると、使うツールはおそらく変化するでしょう。その時々に合った道具を補充し、自分がそれらを持っているとわかっていることは、困難な場面を乗り越えるときに役立ちます。
つらいことがあっても自分なりの方法や誰かの助けを借りて、再び歩き出す力のことを「レジリエンス(回復力)」ともいいます。山本先生いわく、壁を乗り越えるための方法を自分の道具箱にどれだけ持っているかが、レジリエンスを高め、子どもの一生を支えるお守りになるといいます。
「低学年の頃に効果的だった方法が、高学年になると効かなくなることもあります」
と山本先生はいいます。その時々の成長に合わせて、新しい解決法を一緒に探してアップデートしていく。そうやって、自分の道具箱を充実させていく過程を、大人が伴走してあげることが大切です。
中でも一番大事な道具は、「助けて」と誰かに言える力です。
「一人で抱え込まなくてもいいんだよ」と伝え続けること。困ったときに誰かと繋がれる力こそが、山本先生の考える、一生モノの生きるスキルなのです。
無料教材|こころの道具箱

つらいとき、不安なとき、うまくいかないとき——そんなピンチの場面で、自分を助けてくれる「こころの道具箱」という考え方があります。
自分オリジナルの道具箱を作ってみてくださいね!
小学生が楽しく作れるワークシートはこちらから
1日5分、魔法の「ただ居る」時間

最後に、忙しい毎日の中でも実践できる具体的なケアについて伺いました。山本先生がおすすめするのは、1日たった5分、全ての刺激を遮断して子どもと向き合う時間です。
これは心理学で「アクティブ・リスニング(積極的傾聴)」と呼ばれますが、やり方はとてもシンプルです。スマホを別の部屋に置き、テレビも消し、家事も一度ストップします。そして、アドバイスをしたり「それはダメだよ」と評価したりせず、ただ子どもの世界に興味を持って一緒に「そこ(今その瞬間)に居ること」と山本先生はいいます。
山本先生が大切にされている概念に、好奇心・受容・愛情を持って接する「心の安全基地づくり」があります。「何を話しても、あるいは何も話さなくても、この人は自分を丸ごと受け止めてくれる」。
その安心感がある子どもは、外の世界がどんなに荒れていても、また自分の力で一歩を踏み出すことができるのです。
子どものストレスQ&A
特定非営利活動法人メンタルヘルス環境向上プロジェクト(MHEC:メック)は、「メンタルヘルスを特別なものにしない社会」を目指して活動するNPOです。
日本では心の悩みを抱えていても「相談するのは怖い」「迷惑をかけたくない」と感じ、支援につながる前の段階で孤立してしまう人が少なくありません。
私たちはその“相談の手前”にある壁に注目し、誰もが自然に心のケアに触れられる文化を育てることを目指しています。
その中心となる取り組みが、親子で心をひらく体験型メンタルヘルスプログラム「M.O.F.U」です。
アートや音楽、ヒップホップ、マインドフルネスなど多様な表現活動を通じて、子どもも大人も安心して自分の気持ちを表現できる場をつくっています。
現在は 「M.O.F.U 2026 年間ウェルネスサポートプログラム」 の準備を進めており、
その中心となる体験イベントとして 2026年5月31日に「M.O.F.U 2026 ウェルネスイベント」を開催予定です。また、信頼できる心理専門家をご紹介するサービス「マイメンタルヘルス」 などの取り組みも行っています。
専門家だけに任せるのではなく、市民一人ひとりが心の健康について学び支え合える社会を目指し、メンタルヘルス文化の形成に取り組んでいます。

この記事を監修した人
山本 茉樹
公認心理師・臨床心理士、米国カリフォルニア州認定 LMFT(マリッジ・ファミリーセラピスト)
日本および米国カリフォルニア州にて、医療機関、教育・保育現場、地域支援に関連する臨床に従事。都内の総合病院精神科および精神科クリニックにて、心理療法士として心理臨床および研究に従事した後、米国で地域に根ざしたコミュニティベースの臨床に約10年間携わる。
クリニックでの臨床をはじめ、乳幼児期のメンタルヘルス・コンサルテーション(ECMHC)、神経発達症のあるお子さんとそのご家族への支援、精神科疾患を抱える方への心理療法など、さまざまな領域で活動。また、自身の海外生活の経験から在外邦人のメンタルヘルス支援にも携わっている。





