<子どもの防犯 前編>小学生・中学生を取り巻くリスクと、いま知っておきたい「身を守る知識」

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監修者:NPO法人体験型安全教育支援機構 代表理事 清永 奈穂

「うちの子は大丈夫だろうか」
ニュースで子どもを狙う犯罪を目にするたび、多くの保護者が不安を感じることでしょう。とはいえ、日々の生活の中では、どこか日常とは距離のある出来事として受け止めてしまうことも少なくありません。

しかし、共働きの家庭や、塾や習い事など、ひとりで行動する時間が増え、スマートフォンやネットが身近になったいま、子どもを取り巻く環境は確実に変わっています。

そこで今回は、KADOKAWA『10歳までに知っておきたい まんがでわかる! 子ども防犯性教育』の監修者、NPO法人体験型安全教育支援機構 代表理事 清永 奈穂先生に、いま子どもたちが直面しているリスクや、自分で身を守るための具体的な方法について話を伺いました。

本記事(前編)では、小学生・中学生を取り巻く防犯の現状を、後編では具体的な身を守る方法や大人の関わり方を紹介します。

目次

子どもの防犯がいま重要と言われる理由

子どもの防犯というと、「子どもを狙う犯罪が増えたから必要になった」と感じる方も多いかもしれません。しかし、防犯がより重要になっている背景には、子どもを取り巻く環境が大きく変わってきたことがあります。

子どもがひとりで行動する時間や、大人の目が届きにくい場面が、以前よりも確実に増えています。

子どもがひとりで過ごす時間が増えている

共働き家庭の増加や生活スタイルの変化により、登下校や習い事の行き帰りなど、子どもがひとりで過ごす時間は長くなっています。

これは子どもの自立につながる一方で、周囲から見えにくい時間や場所が増えていることも意味します。人目の少ない状況に置かれればリスクは高まります。

ネットの普及で「見えない世界」が広がった

さらに、スマートフォンやネットの普及によって、子どもたちは大人の目が届きにくい場所でも行動できるようになりました。SNSやオンラインゲームなど、日常的に使う場面では、子ども自身が判断しながら、他人と関わりを選ぶことが求められます。

ネットそのものが危険なのではありません。大人が見えない場所で、子どもがひとりで判断する場面が増えていることが、防犯をより難しくしているのです。

防犯は「気をつけること」ではなく「身につける力」

インタビューの中で清永先生は、狙われやすさを、子ども本人の問題として捉えるのではなく、状況や環境に目を向ける必要性を話していました。

防犯は「大人が子どもを守るもの」だけでは足りません。これから大切になるのは、子ども自身が違和感に気づき、困ったときに行動できる力を育てていくことです。

小学生と中学生で変わる「狙われやすさ」

警察庁などの調査データを見ると、子どもが犯罪被害に遭う割合は、未就学期から小学生になるタイミングで大きく増加します。これは、小学校入学をきっかけに、登下校や友だちとの行き帰りなど、ひとりで行動する機会が一気に増えることが大きく影響しています。

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出典:「令和6年における少年非行及び子どもの性被害の状況」をもとに編集部にて制作

小学生は「行動が読まれやすい」

清永先生は、小学生期の防犯リスクについて、「ひとりで行動する機会が一気に増える時期」だと説明していました。登下校や友だちとの行き帰りなど、行動のパターンが比較的決まっているため、「この時間に、この道を通る」といった動きが外から見て分かりやすくなります。

その結果、人目が少ない場所や、ひとりになる瞬間が重なると、リスクが高まりやすくなります。これは子どもの性格の問題ではなく、行動が読み取られやすい状況が生まれやすいという、小学生期ならではの特徴だといえます。

中学生は「行動範囲が広がり、見えにくくなる」

一方で中学生になると、電車やバスでの移動、塾や商業施設への立ち寄りなど、行動範囲が大きく広がります。清永先生も、「成長とともに行動は自由になるが、その分、大人の目が届きにくくなる」と指摘していました。

この時期には、路上での出来事だけでなく、痴漢や盗撮、SNSをきっかけにしたトラブルなど、周囲からは見えにくいリスクが増えていきます。

外からは問題が起きているように見えなくても、子ども自身が判断を迫られる場面が増えていることが特徴です。

年齢によって「狙われ方」が変わる

清永先生の話から見えてくるのは、「成長すれば安全になるわけではない」という視点です。小学生と中学生では、危険の形や近づき方が変わり、狙われ方も年齢によって変化します。そのため、防犯も一律に考えるのではなく、年齢や成長段階に応じて関わり方を考える必要があります。

清永先生の話からも、小学生と中学生では行動の仕方や置かれる状況が異なり、それに合わせた見守りや声かけが大切だと分かります。

犯罪者はどんな視点で子どもを見ているのか

「近づきやすい・逃げやすい・イメージが良い」場所

清永先生は、犯罪が起きる背景について、「犯罪者は子ども本人よりも、その子が置かれている状況や周囲の環境を見ている」と説明していました。
近づきやすいか、逃げやすいか、直感的に「イメージが良い」か。こうした条件がそろっている場所や場面は、結果として狙われやすくなります。

見通しが悪い道、ひとりになりやすい時間帯、助けを求めにくい状況。これらが重なることで、リスクは高まります。ここで重要なのは、狙われやすさが子どもの性格や行動の問題ではないという点です。おとなしい子でも、活発な子でも、条件が重なれば誰でもターゲットになり得ます。

「イメージが良い」の中には、「狙いやすい子ども」という要素も含まれるそう。

例えば、とにかく弱そうな子ども、一人歩きや一人遊びの子ども、ぼんやり・フラフラ・キョロキョロ・ウロウロしている子ども、はっきりしない子ども。

とはいえ、子どもは誰でもこのような要素を一つは持っているため、清永先生は、「『狙われやすい子ども』という言葉を、性格や資質の問題として受け取ってほしくない」と、話します。周囲の環境と合わせて、このような要素がはまったときに、「いまだ、この子だ」とターゲットに絞っていくそう。

ひとりになる時間や場所をどう減らすか、どのように大人が関われるか。環境や関わり方を整える視点が、防犯を考えるうえでの土台になります。

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出典:「犯罪と地震から子どもの命を守る」(教育技術MOOK)小学館2013をもとに編集部にて制作

犯罪には「転移性」があるという考え方

清永先生の話では、子どもを狙う犯罪には「転移性」という特徴があるといいます。
これは、ある手口や場所がやりにくくなると、犯罪がよりやりやすい方法や場所へと移っていく、という考え方です。

たとえば、地域の見守りや声かけが増え、路上で子どもに近づくことが難しくなると、犯罪がなくなるわけではありません。清永先生は、「やりにくくなった分、別の場所に移っていく」と説明していました。その移動先として目立つのが、ネット空間です。

ネットの中では、姿を見せる必要がなく、時間帯を問わず近づくことができます。周囲の大人や第三者の目も入りにくく、路上に比べて接触しやすい環境が整っています。清永先生は、路上での接触が難しくなることで、ネットのような人目の入りにくい場所へと移っていく傾向があると話しています。

犯罪者は「下見」とターゲット選びをしている

子どもを狙う犯罪者の多くは、いきなり子どもに近づいていくわけではありません。

清永先生は、「下見をしながら、その地域や子どもに隙がないかを見定めながら、ターゲットを選び、近づいてくる」といいます。

これは、ネット上でも同じことが言えます。まず、投稿内容やプロフィール、コメントのやり取りなどから、子どもの様子を探る「下見」が行われます。

フィルタリングがかかっていない、夜遅くまで自由に使っている、孤独や悩みを発信している、誰かに認めてほしそうな様子が見える。

清永先生は、こうした情報は、子ども自身が意識しないうちに発信していることも多いと話していました。

寂しさを感じたり、誰かに話を聞いてほしいと思ったりすることは、どの子どもにも自然に起こります。問題になるのは、それらの要素が、大人の目が届きにくい環境と重なったときだといいます。
その重なりによって、外から見て「近づきやすい状態」になり、ターゲットとして絞られていくことがある、という説明でした。

だからこそ、清永先生は、ネットの防犯についても「使わせない」「怖がらせる」といった対応だけでは不十分だと話していました。

どんな環境で、どんな関わりが起きやすいのかを知ることが、防犯の出発点になるといいます。

防犯は「怖がらせること」ではない

身を守る力は、これからの「いきるスキル」

ここまでの話から、子どもの防犯は「危険な人がいるから気をつけよう」という単純なことではないことが分かります。

子どもがひとりで行動する時間が増え、ネットを含めた見えにくい場所で判断を求められる場面が増えていること。だからといって、子どもを怖がらせたり、社会は危険だらけだと教えたりすることが、防犯につながるわけではありません。

清永先生は、「困ったときに助けてくれる大人がいる」という前提を大切にしてほしいとも話していました。

防犯は一度教えて終わりにするものではなく、成長や状況に合わせて考え続けていくことが大切だといいます。

状況に気づくこと、違和感を言葉にすること、助けを求めること。

こうした力は、犯罪から身を守るためだけでなく、これから社会を生きていくうえでも大切な「いきるスキル」のひとつだといえるでしょう。

前編では、子どもの防犯をめぐる現状やリスクを整理してきました。

続く後編では、こうした理解をふまえたうえで、具体的に身を守る方法や、家庭や学校でどんな関わりができるのか、小学生・中学生それぞれの発達に合わせた実践のヒントを紹介していきます。

子どもの防犯Q&A

「子どもの防犯が必要」と言われるようになった理由は何ですか?

子どもを取り巻く生活環境が、大きく変わってきたことが背景にあります。
共働き家庭の増加や習い事の多様化によって、子どもがひとりで行動する時間は確実に増えています。防犯が重要になったのは、大人の目が届きにくい場面が日常の中で増えているからだといえます。

小学生と中学生では、防犯のリスクにどんな違いがありますか?

 年齢によって「狙われ方」が変わる、という点が大きな違いです。
小学生は、登下校など行動パターンが比較的決まっているため、外から見て行動が読み取られやすい特徴があります。一方、中学生になると行動範囲が広がり、電車移動やネット上での関わりなど、周囲からは見えにくいリスクが増えていきます。成長とともに安全になるのではなく、リスクの形が変化していくことを理解することが大切です。

 犯罪者は、どんな視点で子どもを狙っているのでしょうか?

子ども本人の性格よりも、その子が置かれている「状況」や「環境」を見ているといいます。
近づきやすいか、逃げやすいか、犯罪者からみてイメージが良いか(直感的に)、といった状況や環境が重なることで、結果として狙われやすくなります。おとなしい子でも活発な子でも関係はなく、誰でもターゲットになり得るという点が重要です。

なぜ、ネットでも防犯の視点が必要なのでしょうか?

ネットは、大人の目が入りにくく、子どもがひとりで判断する場面が多いからです。
ネットの中では、犯罪者は姿を見せる必要がなく、時間帯を問わず近づくことができます。ネットそのものが危険なのではなく、見えにくい環境で、子どもがひとりでいることが、防犯を難しくしています。

 防犯は、子どもに「気をつけさせる」だけではダメ?

はい。防犯は一度教えて終わりではなく、日常の中で身につけていく力だと考えられます。
防犯は、子どもを怖がらせることではありません。子ども自身が、違和感に気づくこと、困ったときに言葉にできること、助けを求めていいと知ること。防犯は一度教えれば終わりというものではなく、日常の中で考えていくことが大切です。

この記事を監修した人

清永 奈穂

NPO法人体験型安全教育支援機構代表・理事株式会社ステップ総合研究所所長。

教育学博士(日本女子大学)。犯罪、いじめ、災害などから命を守るための研究に取り組み、各地の自治体や幼稚園、小学校などで体験型の安全教育を行う。

著書/監修作に『10歳までに知っておきたい まんがでわかる! 子ども防犯性教育』『親子で学ぶ「そのとき」どうする? おおじしんから いのちをまもるえほん』(ともに株式会社KADOKAWA)、『あぶないときはいやです、だめです、いきません こどもの身をまもるための本』(株式会社 岩崎書店)などがある。

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